日本語は基本的に伝達速度の小さい言語だ。
高速
↑
ヘブライ語
フランス語, スペイン語
英語
ドイツ語, 中国語
ロシア語
日本語
↓
低速
同じ意味を省略表現なしで伝えた場合に、伝達速度の大きい言語は小さい言語より短時間で伝えることができる。
一般に、伝達速度の大きい言語は文の軽い要素を先に、重い要素を後に置こうとする性質が強い。
「私は私が昨日買ったその本を読む」は、「私は」「私が昨日買ったその本を」「読む」に分けられ、一番重いのは「私が昨日買ったその本を」という部分だ。
英語は日本語より伝達速度が大きいので、「I read the book that I bought yesterday」になり、「the book that I bought yesterday」という重い部分は最後に置かれている。
この重い部分が代名詞になった場合を考えてみる。
「私はそれを読む」という日本語文では、代名詞「それを」のほうが、数少ないものから選ばれているという点で、動詞「読む」より軽いかもしれない。英語では「I read it」であり、「it」は「read」より明らかに軽いが、英語は「I it read」とはいうほどに速くはない。
英語よりもさらに速いフランス語では、一般にSVO型の文を作るが、目的語が代名詞である場合には、語順がSOVになる。
「Je lis le livre que j'ai acheté hier」の目的語「le livre que j'ai acheté hier」は文の最後に置かれているが、「Je le lis」の目的語「le」は動詞よりも前に来ている。
日本人にとって英語でのやり取りはとても速く感じられるが、フランス人にとって英語はそれほど速く感じられない。
伝達速度がとても小さい日本語では、各単語の音節数も多めであるため、日常会話においては文のあちこちを省略する。
「私は私が昨日買ったその本を読む」→「私は昨日買った本を読む」
そのため、日常の定型的なやり取りで、日本人が不自由さを感じることはない。しかし、話がややこしくなってくると、日本語の伝達効率はどんどん低下する。例えば、「私はあなたが昨日買ったその本を読む」の「あなたが」は省略できない。定型的な「私は昨日買った本を読む」と比べれば、もっと非定型的な「私はあなたが昨日買った本を読む」では音節数が増え、文がずっと長くなる。
非定型的な内容を伝達しようとする際に、日本語では伝達効率が大幅に低下する。日常会話と比べると、議論ははるかに非定型的なので、日本人は議論を面倒くさいと思う傾向がことさら強い。一方、伝達速度がもともと高速なフランス語では、日常会話と議論とで伝達効率にあまり差がつかないため、日本人と比べて、フランス人は一般的に議論を好む。「カフェでの話題の90%は政治ネタだ」というあるフランス人の言葉は正確ではないけれど、実情からまるでかけ離れているということもない。